第二章
室内に入って扉を閉めれば、部屋の右側、メインスペースが視界に入る。ローテーブルを挟んで二人掛けソファが向き合っている応接用の構造は、しかしてその用途で使われたことがない。ソファに転がっているパステルカラーのクッションは、ここがハイジアである少女たちの領域だということを如実に表している。
部屋の主がいるのは、その向こう側。
簡易キッチンとハーブの栽培キットが並ぶ、生活感溢れる場所だった。
「あぁ……おかえり。服は用意してあるよ」
白衣をまとった青年は、ヴィオレの姿を見とめるなりそう言った。
一糸まとわぬヴィオレを見て表情を曇らせたのは彼──御堂祐樹だけで、実際青年は同業者から変人扱いを受けている。
ただ一人、ハイジアをヒトとして扱う人間として。
「まったく……外へ繋がるエレベーターなんて君たちしか使わないのに、いまだに更衣室のひとつも作らないとはね」
独り言のようにぼやく青年に同意していいものか悩みながら、ヴィオレは出入り口からもっとも離れたところにある簡易ベッドへ向かう。カーテンで周りを囲める作りになっていて、ちょうど御堂の立っている場所からはベッドが見えないようになっていた。
シーツの敷かれたマットレスの上に、ヴィオレがいつも着ている服がたたんで置いてある。上はスウェット素材のパーカー、下はキュロットスカートで、その下に下着類とニーハイソックス。ロングブーツは床に並んでいた。
淡いピンクや落ち着いたブラウンを中心にしたコーディネートは、他のハイジアがヴィオレの髪や瞳に合わせてそろえたものだ。