終章 始まりは終わりと共に
失踪事件の犯人、王都からの使者を拘束。
そんな見出しの号外が街に流れた。
数日間、降ったり止んだりの豪雨のせいで水捌けがうまくいかず、雨が明けて二日ほど経っているにも関わらずアザリアの街は未だに足元が水浸しになっている所が多い。
それどころか無料で配布された号外がその場に捨てられ排水のあたりにまで流れて詰まってまた捌けが悪くなり、負の連鎖を生み出していた。
水と紙の二重苦。
いや、訂正。
大通りと裏通りの一角の損壊が凄まじいので正確には三重苦。
また例の青年たちの仕業か! と憤怒する街人が大勢いるが、何か怪物のようなものが街を破壊していたという証言が中枢街へ多数寄せられていた。
無罪放免、清廉潔白──とまではいかないが、例の青年たちにも弁解の余地ぐらいはありそうだ。
その例の青年たちの片割れ、無免許無店舗無愛想の三拍子が揃ってしまったイアンは、居住区の一角、街が見下ろせる高台の広場に居た。
切り出した石で作られた四人掛け椅子に座って、二つ折りの紙切れを覗き込んでいる。
地図、というにはあまり正確ではない。
半分地図で、半分メモ書きといった感じの紙切れである。その内、地図の方には何軒か印を付けている。
もちろん、誰かの家を探しているわけではない。
──……日当たりがいいな……もっと日照時間の短い所はないものか。
住まいの探索中だった。
裏通りにあったイアンの自宅は今回の騒動で木端微塵に吹き飛んでしまったのだからそれもやむを得ない。
リッキーをカソックの男の元へ向かわせた後、イアンは妖女精霊ヘルと対峙し、その代償として旧自宅周辺の一帯を更地にしてしまっていた。
イアンが悪いわけではない。
あの妖女精霊が倒錯してでたらめに骸骨を解き放ったのが原因だ。
最終的には妖女精霊が倒錯の末に精神異常を来たし、自滅した。というのがイアン側の事の顛末である。