第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う

 しかしそれでも男は骸骨の使役を止めなかった。止めることが出来なかった。それが自身が最も嫌う足掻きだとは知らず、男は骸骨を使い続ける。

 もっと早くに気付いて足掻けていれば、こんな事にはならなかっただろうとリッキーは男を見て思う。同時、足掻くことが間違いでないと気付くことができなければ自分もあんな風になっていたかもしれないとも思う。

 誰かの力さえ欲しなければ、この男は別の舞台で足掻けていて別の道に進んでいたかもしれない。

 そんな過去を消し去る力なんて、人は持ちえない。

 でも、遅くはない。遅れてはいない。

 だって、

「歯ぁ喰いしばれ」

 リッキーは言う。

「過去(テメエ)をへし折る」

 変わった先にある未来(これから)は、きっと今とは違うものに出来るのだから。

「固まれ骸骨共!!」

 流れる刹那の中、声に反応した骸骨が防護するように男の体にへばりつく。幾重にも、何重にも。足掻いた。臆面も無く。必死の形相で。

 それを見届けたリッキーは、踏み込みの一歩を爆発させた。筋力の伝達率が著しく上昇している。地面が爆ぜるどころの話では追い付かない。ままならない。言葉そのまま、地面が吹き飛んで深々と抉れた。風を切るどころの速さではない。文字そのまま、突風のような疾走。

 一秒も使わずに距離を詰めたリッキーは、左足で急激に減速。駆け抜ける事でついた運動エネルギーが全て左足の親指に乗る。

 その運動エネルギーを留めるは強靭な下腿三頭筋。そこを伝って駆け上がってくる力の余波を大腿四頭筋が受け止めて大砲の砲台が準備を終える。

 次いで上腕三頭筋が歪な音を立てながら隆起し、金棒を握り直すと同時、腕全体に青筋が浮かぶ。リッキーはそのまま腰の回転で全力の一振りを放った。

 音も無く、音が追い付く暇も無く振り抜いた金棒が白の壁を粉々に砕き、勢いを殺すことなくカソックの男本体に到達する。悪魔のような衝撃が男の体を突き抜け、リッキーは金棒を振り切って骸骨ごと男を吹き飛ばした。

 数秒間吹き飛ばされていた男はややあってようやく地面へ叩き付けられ、意識を失う。

 男の背中にあった魔法陣は突き抜けた衝撃で破壊されたらしい。硝子のように割れ、崩れ去り、褐色の翼が消滅する。

 消えゆく間際、ふわりと舞い上がった褐色の羽根が上空まで昇ってゆき、最後には、見えなくなってしまった。