第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う
世界は確かに、優しくはない。
「テメエみてえなのは、世界にわんさかいるんだろうよ」
慈悲深くも無い。
「だったら、俺に寝てる暇はねえ」
だが世界がそうなら自分が作り出せばいい。人間には、精霊には感情がある。優しさや慈悲深さは、感情がもたらす母性の断片なのだから。
世界の冷たい部分に同調する必要など、全くないのだから。
「迷惑をかけたくないだなんて言うんじゃねえぞバカ精霊。ガキの面倒みんのが大人の仕事なんだよ。だからお前は黙って俺と生きろ。俺がいつでも守るから、だから、」
リッキーは叫ぶ。
「三分だけでいい。お前の力を俺に貸せ!」
声が、クルスティアン・ポポリオーネに、届く。
目じりの涙は死に対する恐怖からなのか、リッキーに対して溢れ出す感情からなのか定かではない。しかし理由があるとすれば、それは、この二択ではなくそれら全てが折り合い、重なり合い、ひしめき合った末に溢れ出た決意の証だったのだろう。生きたいという叫びだったのだろう。
幼女の体が淡く光り出す。それに併せ、足元から上昇気流が立ち昇る。
リッキーから伝達される膨大な魔力と意志を、魔法陣がティアの都合の良いように力の質を変換する。
ティアがその代わりに差しだす力と意志を、魔法陣がリッキーの都合の良いようにその質を変換する。
これは、互いに互いを陥れないようにするための安全装置。だがもしも二人の意思が合致した時、生み出される力は一体どれほど強大なものになるのか。
直後、空を埋め尽くすほど膨大な数の武器が豪雨の如く大地へ降り注いだ。
怒涛のように地面に突き刺さって大地を揺らす。その光景は、もう、戦慄してしまうくらい圧倒的だった。
「生きるぞ」
リッキーは、地面に刺さった禍々しい棘が付いた金剛の棒に手を伸ばす。
「──動、け骸骨共!!」
男の声で骸骨が目を覚ます。
再び大量の白が一斉に殺到するが、瞬時に空から飛来する武器に穿たれて消滅した。
男はもう一度腕を動かして骸骨を呼び出す──が、その数が極端に減っていた。同時、浮遊の高度を保てなくなってきている。
原因は女神の魔力が回復したことに起因する翼の乖離。
精霊契約により安定をとりもどしたティアが象徴である翼を引き寄せるが跳ね上がったらしかった。証拠に、ティアの背中の翼が大きさを取り戻し始めている。