第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う

 そんな世界で大切なのは、相手を出し抜き、自分が生き抜ける環境や状況を作り出す事に尽きる。

 それに死んでしまっては元も子も無いのだ。例えそれが自分を諦める事だったとしても、早々と見切りをつける事だったとしても、自分という存在がゼロにさえならなければまた動き出すことができるのだから。

 排他的にならなければ、誰かに足元をすくわれる。

 冷酷だが、それが世界の実態だ。

「死ぬというのは、悔しい事か?」

 男は問う。

 ニタリと気味悪く笑って、誰もいない空を見上げて、問う。

 鉛色の雲と、隙間から覗く青と、そこから飛来する剣を見上げて。

「────……剣?」

 斬! と、空から飛来した一振りの剣が地面に刺さって鈍い残響を放つ。

 少し遅れて再び、数瞬置いて更に剣が二本三本と飛来して続けざまに地面に突き刺さる。

 それを見て男の時が止まる。

 思考が停止する。何が起こっているのか理解できない。目の前で起きている事が一体何を意味しているのか分析できない。

 しかしこの状況下で思い当たる事が一つだけある。だがそれは有り得ない。有り得てはいけない。何故なら──。

 男はギチギチと首を動かして見下ろすように背後ろの方に顔を向ける。

「──じゃあ、生きてりゃ意味があるんだろ」

 視界に映る砂煙の中から、声が聞こえた。

 死んだはずの男の声が聞こえた。

 終わってはいなかった。つまり、そういう事だった。

 立ち込める砂煙を薙ぎ払い、その中からリッキーとティアが姿を現す。

 二人の周囲にはおびただしい数の剣、槍、斧が突き刺さっていて、さながら刃の壁を作り出していた。

「生きてるぞ。精霊魔術師」

 リッキーは言う。

「テメエの力は受け止めた」

 自分以外の誰かがいるこの世界は、常に接触を強いられる。時にそれは衝突を生み、争いを起こしたりもする。だが、それが嫌だからと他人を切り捨て利用できるものは奪ってきた人間に、逃げる事を正当化する言い訳を用意してる人間だけには屈してはならない。