第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う

 音も無く迫る数千の骸骨。しかしリッキーにはそんな事などもう関係ない。戸惑わない。躊躇しない。

 このクソッタレな現状をぶち壊すために、ティアを救うために握った拳を振り上げ、殴りつけるように契約の印を──捺す!

 直後、硝子が砕け散る様な音が響いた。

 同時、殺到した骸骨が爆発に次ぐ爆発を巻き起こした。暴れる火炎が地表を削り取り、荒ぶる風が吹き飛ばしてそれを消す。裏通りで起きた爆発など、比ではない。

 それほどの大爆発。

 つまりは、終わりを迎えた。そういう事だった。

 結果としてカソックの男は女神の象徴を手に入れ、女神の本体を消し去り、今や二つとない存在に成ったのだった。

 男は鉛色の空を見上げる。

 雨が勢いを吹き返したのはどうやら一瞬の事だったようで、すでに止み上がっており、分厚い雲の切れ間から陽の光が差し込んで来ている。

 終わってみれば存外呆気なかった、とカソックの男は女神の力を手に入れるまでのことを振り返って淡泊に思う。

 それはそうだ。

 片や精霊契約にも至れていない人間と死にかけの女神だった抜け殻。片や精霊契約の力と不完全ながらも女神の力を持った人間。

 前者の力が届かないのは道理だった。ただ、それでも抵抗の跡は見受けられた。

 宙に浮く男のすぐ近くの地表。距離にして僅か数メートルの位置に、武骨な剣が刺さっている。いまだ鈍い共振音を奏でながら。

 死の間際、女神の抜け殻が放ったであろうその力の断片は、虚しくもカソックの男に届く事はなかった。加えて、抗弁を垂れていたリッキーも消えた。

「……死んでしまっては意味がないんだよ。リッキー君」

 どれだけ言葉を連ねようが、どれほどの説を謳おうが、死と言うのは全てを蹂躙する。

 リッキーの言う事は確かに正しい。

 だが、そんな事をいつまでもほざける程、世界は優しくない。