第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う
利害関係、リスクといった方面から見るとこの相互支援的行為はメリット以外の何物でもない。だからリッキーのような特殊な場合を除き、精霊契約は断る事の方が稀である。
過去があった。
忌むべき過去が。精霊契約を断らなければならない戒めが。
リッキーは契約の際、精霊を一人殺してしまっている。しかもリッキーが保有する膨大すぎる魔力のせいで、契約さえしなければ失わずに済んだ存在を自分の手で抹消してしまったのである。
そんな理由があったからこそリッキーは今まで契約を断っていた。
だが、気付いてしまった。
リッキーはこれまでカソックの男やイアンが言っていた言葉を都合よく、体よく、辻褄が合うように組み合わせていく。継ぎ接ぎ、重ね、時に自分の考えで補いながら答えを導いていく。
ご都合主義でもいい。間違いだと言われても構わない。これは自分の問題なのだから。自分の思い違いを正すための。
そしてその答えは、実のところ一番最初に証明されている。
あの朝。
一週間前の朝、幼女が契約をしてくれと尋ねて来たあの時に。
精霊には習性がある。自分が好む魔力を有した人間の元へ契約のために自分から出向く事があるという習性が。
それを鑑みれば一目瞭然だった。答えなど元より白日の下に晒されていた。
裏を返せば資格がある。逆を言えば問題は何一つない。だから、契約に至ったとしても幼女を殺してしまうような、そんな悪夢のような悲劇は元からなかったのだ。
フォン! と幼女の胸の前あたりに魔法陣が展開された。
薄目を開けるティアが小さく微笑んでいる。小さな口が、何かを紡いだ。聞き取れないほど小さな声。しかし、その声は確かにリッキーに届いている。なにより、
「リッキー……助、けて……?」
その言葉を聞き逃せる道理はなかった。
瞬間、リッキーの行動の意図に気付いたカソックの男が両腕を振りかざし、白の軍勢を一ヶ所へ殺到させた。