第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う
だってリッキーはもう気付いてしまったから。自分の身に宿った破壊の力が、使いようによっては誰かを救う事ができるかもしれないのだと。視点を変える事。自分と向き合う事。それが出来なければ、この先どんな力を手に入れたとしても意味はないのだと。
ならば、せめて足掻こう。見苦しく足掻いて、中身を変える努力をしよう。
だって、自分が変われば、世界が変わるのだから!
リッキーがティアへ元へたどり着き、横たわる幼女の額にそっと手を乗せる。
ぞっとするほど冷たくなっていた。それはまるで、魔力切れを起こした時のような状態に似ている。
苦しかっただろう。寒かっただろう。辛かっただろう。そんな感情が押し寄せてきてリッキーはティアの身体を思わず抱き寄せた。
ティアの背中に回した掌にふわりとした感触が走る。
小さな翼だった。
小さな小さな、握れば潰れてしまうくらい弱々しい白。
カソックの男に奪われた象徴を取り戻そうとティアも足掻いている。生きようと見苦しくも戦っている。
今こうしている間にも、心なしか翼が蠢いて、そして大きくなってきている気がする。
こんな事になっても幼女は諦めていはいなかった。魔力切れ寸前の死にかけでありながら自分を取り戻すことを放棄してなどいなかった。
ならばより一層、ならばことさら、カソックの男の思想を良しとする訳にはいかない。他人を犠牲にすることでしか成立し得ないあの男一人が笑う世界などあってはならない。
だったらやるべき事は一つしかない。
「……おいバカ精霊、」
クソったれなこの状況を一瞬で打破できる手段。
「魔法陣を出せ。契約だ」
精霊契約。
人間と精霊の間で交わされる、魔力に関する相互支援的行為。
人間は心臓で精製される魔力を差し出し、精霊は魔力を受け取る代わりに自らの力を貸し出す。