第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う
「止めておけ。変わりは──しないさ!」
カソックの男が嘲笑しながら言葉を放つ。
それでもリッキーは止まらない。止まる事なんて、できない。
「うるせえよ精霊魔術師」
リッキーは言う。
「じゃあテメエは最後まで自分と向き合ったのかよ!? 自分が持ってる物と、真正面から向き合った事があるのかよ!?」
「────、」
男の嘲笑が止まる。
それまでの考えを変えるという事は、決して逃げなどではない。視点を別の方面に向けてみるという事は、断じて卑怯な事ではない。
「自分じゃねえ奴の力を奪う事でしか変化を見いだせなかったテメエには、自分にどれだけの力があるかも分からねえんだ! そんな奴が」
変われない──違う! 変わろうとしていないだけだ!
変われなかった──違う! もう間に合わないと思い込んでいるだけだ!
力が欲しいと望むことが間違いだと言っているわけではない。
しがみつく行程が、順序が間違っている。
足掻いて、足掻いて、足掻いて、それでも届かなくて変われなくて、だけどそれでも変わりたくて。
無い物ねだりは、そんな人間に残された最後の手段なのだ。
リッキーは体力の限界から込み上げてくる、もう止まってしまいたいという感情すらぶち殺して、もうほとんど叫びながら、
「世界を変えるだあ!? ふざけた事を抜かしてんじゃねえ! ガキ一人救う事もできねえ奴が、そのガキの命を犠牲に旗を掲げようとする奴が──自分を信じようともしねえ奴が、人を導く事なんて出来る訳ねえだろうが!!」
今のリッキーは、もしも負債の全てを消し去る事ができるくらいの大金を積まれても力を差しだす事なんてしない。もしも誰かを守れる力を与えると言われても、自分の力を差しだす事など無い。
そんなものは、もう、リッキーにとって価値は無い。