第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う
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雨を切裂いてリッキーは大通りを走る。
この冷たい雨の中、あの幼女は一体どうしている。カソックの男に攫われたティアは全体どうしている。それを考えるだけでリッキーの走る速度は上がる。
駆けて。
駆けて。
駆けて。
しかし、手痛くもカソックの男を追うための手がかりが途絶えてしまっていた。
あの闇医者ならば、きっと何か分かり切ったような顔で淡々と順路を見つけていくのだろうが、リッキーは首を横に振って思考を切り替える。
──頼るな! あとは俺しか居ねえんだよ!!
適当に街中を走ればいつかは見つかるかもしれない。ただ、今は一分一秒も無駄にする訳にはいかない。
幼女の魔力は多少回復してはいるが、それが何時まで持つかは分からないのだ。
もしかしたら今この瞬間にもまた魔力切れを起こして青痣に蝕まれているかも分からない。
せめてあの男が行きそうな所でも分かれば。と、どうしようもない無力感に歯がゆさを覚えた直後──空が突然、黒に暗転した。
「!?」
見える空は曇天よりも暗く、そして重々しい。まるで一瞬にして夜が到来したかのような錯覚に襲われる。
しかし空の変化はそれだけに留まらない。重々しいくらいの黒に染まった夜空に、今度は天を衝くような巨大な黒い柱が立ち上った。
リッキーはそれを見て瞬時に直感する。
恐らく、立ち昇る光の元に幼女はいる。
光が見える方角は西。位置は恐らく外壁の向こう。つまりは街の外。
街の西には荒野がある。
カソックの男は言っていた。ティアは女神としてまだ完全な覚醒には至っていないと。
だとすれば覚醒を促すために何かアクションを起こすのは道理。裏通りで女神の覚醒を促さなかったことを鑑みるに、裏通りでは出来ない、もしくは別の場所にあらかじめ準備をしていたとすればカソックの男がティアを連れ去った事にも辻褄が合う。