第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う
しかしながら、そういう事であれば、突然夜が来て黒い光の柱が上がるという超常的な現象が起こっている現在の状況から、逆説的にカソックの男がアクションを起こしてしまった後だというのは明白だった。
それからリッキーは更に走る速度を上げて街を抜け、止めに入って来た初老の門番を置き去りに西門を飛び出した。
門から続く道は途中までは綺麗に整備されていたが、しばらく進むと大小様々な石や岩が散見された。また昼から続く雨の影響で道中には淀んだ水たまりが広がっていた。
そんな劣悪な道を駆け抜け、リッキーは荒野の一角に辿り着いた。
星も月もない夜空の下に広がる魔法陣。
微かな光を放つ魔法陣は巨大で、それを構成する白線はどのような原理かは不明だが水たまりの上を走り、岩石を貫いて陣を成り立たせている。
その中心にはカソックの男とティアがいた。
「やあ。早かったねリッキー君」
と、カソックの男は言う。
「いや、思った通り早かったねと言うべきか、もしくはもう遅いと言うべきか。ともかく象徴の切り出しは終わった」
言いながら、足元に横たわるティアを蹴り転がした。
仰向けの状態から反転してうつ伏せになるティア。その体は、まるで糸の切れた人形のように力なく地に沈んでいる。ともすれば死に絶えているかのような錯覚さえ覚える。
「────」
瞬間、腹の底から燃え上がって脳髄に達する熱を感じたリッキーがカソックの男を目掛けて踏込みの一歩を炸裂させた。
地面が爆ぜる。雨を切り裂く。風と共にリッキーが駆ける。数秒と経たずに十数メートルの間合いが詰る。
そのままリッキーは骨が軋むほど拳を握って握りしめて握り固めてカソックの男の顔面目掛けて振り抜いた──のだが、拳は届かなかった。
視界の真横から白が到来する。その白が、男が使役する骸骨の腕だと認識するのに数瞬だけ時間を持っていかれた。