第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う
腕を薙いだ直後に骸骨三体が顕現してイアンへ突撃。そして爆発。近距離での爆破にも関わらずヘルだけ無傷で辺りを弾き飛ばした。
「──いい腕だ。狙撃手に向いているんじゃないか?」
横から声。
「!?」
即座にそちらを向くと、先ほどまで目の前で瓦礫に腰掛けていた男が地に落ちた屋根の上に乗って空を見上げている姿が視界に入った。
有り得ない。
最大火力の爆発をまともに喰らって生きていられる訳がない。そもそもあの骸骨の量は認識をずらせる物量の限界を超えているはずだった。例えずらせたとして、のしかかる反動に立っていられるはずがない。動き回れる訳がない。爆炎を躱せるだけの余裕がある訳がない。
「何か混乱しているようだが、お前が私を捉え切れないのは道理だ」
殺したはずの男を目の前に、瞳孔を揺らして倒錯するヘルに向けてイアンはため息交じりに漏らす。
「言ったはずだ。そちらの認識の対象をずらしたと」
確かにそれは聞いた。
ヘルもそれは覚えている。
だが、あの量の骸骨の照準を狂わせることなど不可能であるはずで。
「私がいつ骸骨の認識をずらしたと言った?」
もしも、たとえば、仮定の話。
上流が汚染された川があってその汚染が人々が暮らす下流にまで及んでいたとして、飲み水を確保するために下流周辺を浄化、整備するのは可能だがその労力は大きい。なぜなら汚染された水が次から次へと上から流れてくるからだ。
だから、整えるのならば上流。
汚染の根源を浄化してしまえば流路の末端整備にかかる手間は激減する。
それと同様に、捌ききれないほど膨大な数の骸骨が居たとしても骸骨自体を統制している者がいるのならば、その者の認識をずらしてしまいさえすれば末端である骸骨など無力化したも同然になる。