第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う

 実際、ヒューゴーが放った骸骨たちの認識をずらした時とヘルが放った骸骨たちの認識をずらした時のイアンにかかった負荷の程度は、後者の方が大きかった。

 そうなれば自然、骸骨の数を更に増やして殺到させればイアンの負荷は分かり易く比例して大きくなり、耐えきれずに爆発の直撃を受ける。

「貴方に恨みはない。でもやらなきゃ。だって、」

 ヘルは右腕を顔の前に持ち上げて言う。

「──世界を変える為だから!」

 そして水平に切り払った直後、骸骨たちが怒涛のようにイアンへ雪崩れ込んだ。

 白が駆け、赤が鳴き、黄が轟く。

 爆発が爆発を呼び、薄暗い裏通りが閃光でまみれる。

 先ほどまでのそれとは比べ物にならないほど増長した爆炎は瓦礫の山と周囲に残った家屋も石畳も纏めて吹き飛ばし、まるで隕石でも落ちたかのような巨大なクレーターを地面に穿っていた。

 骸骨の数もさることながら、特筆すべきはその火力。

 三度あった爆発の中で最も高い破壊力を持つ今回は、たとえ起爆対象の認識をずらしたとしても荒れ狂う爆炎に抱かれて死ぬ。

 助かるのは術者であるヘルだけ。

 差し当たって障害の一つを屠ったヘルは轟音が未だ尾を引く中、クレーターの淵に立ってくぼみを見下ろす。

 存外呆気なかった。結局は人間。精霊を相手取るには役不足だったのだとヘルは改めて自身が高位生命体であることを実感した。

 実感して、後ろを振り返った。

 それと、同時だった。

「────────」

 ヘルは唐突に声を失った。

 なぜなら、振り返った先に──

「久しいなご婦人。数十秒ぶりだ」

 瓦礫に腰掛ける銀髪の男が居たからだ。先ほど圧倒して殺したはずの男が、そこに居たからだ。

 理解が追い付かなかった。しかしヘルの身体は思考を飛ばして先に動く。