第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う
これが儀式のための場づくりという事は、言わずもがな読み取れる。
はっきり言って魔法陣自体はどこであっても書けるし、どこへでも描ける。しかしながら重要になるのは用途だ。
その魔法陣に与える効力が何になるかによって条件は固められる。
荒野に描くは渇望の証。
形状は外周が正円。中心にヘキサグラム。効力は儀式。
散らばる文字六十四個は体組成の役を示す。
その文字に寄り添うように配置された小さな塊は脈打つ穢れなき柱。
外周を覆う文章が表すのは抜粋と上書き。
必要な物は力の象徴。
魔法陣の中心に到達したヒューゴーは幼女を仰向けに地面へ寝かせる。そして、くたりと力なく横たえる幼女の翼から羽根を数枚──毟り取った。
毟られた羽根は事もあろうか宙に投げ捨てられ、ひらりと滞空していたのだが、次の瞬間には地面の魔法陣に吸い込まれるように引き寄せられ、あらかじめ羽根の位置が魔法陣の錬成に関連していたかのごとく、定位置に付いたかのごとく地面に落ちた。
「──『左なる者に与えられる名は、どうしてこうも儚く、脆く、また、信義の顕現ともとれる歪曲なのだろうか」
詠唱が始まる。
ただの白線であった魔法陣から、炎のように揺らめく光が発生する。
同時、雨脚が少し弱まる。
これまで雨に濡れる事のなかったヒューゴーが天から落ちる滴に身をさらしているのは、今まで纏っていた黒霧がないから。
ヒューゴーは雨が嫌いだった。
まるで支配者のように振る舞うからだ。
それは命を育むという意味でもそうだし、干ばつなどで逆に命を奪いもするという意味でもそうだからである。
生殺与奪の権限を持ち、存在一つで善にでも悪にでも、また全にでも零にでもなる万能じみた立ち位置が気に入らない。