第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う
実のところ契約時に魔法陣が刻まれるのは、そんなルール違反を抑制するためなのだ。
魔法陣には魔力を貸し出した人間にとって都合のいいように。また、能力を貸し出した精霊に都合のいいように。互いに互いの都合を守るための力がある。
だから、もしも精霊が自身の能力で契約相手である人間を殺そうとした場合、その殺害行為は成り立たない。
魔法陣が人間の都合のいいように魔力を抑制するからだ。
人間が能力を使い、その能力の貸主である精霊を殺めようとした場合、このケースも殺害行為は成立しない。
魔法陣が精霊の都合のいいように能力を歪めるからだ。
「精霊契約。人間と精霊、魔力と能力、二つの意思が繋がれる契約」
だから言ってしまえば、精霊契約とは、仲分かたぬための平和協定的な意味合いが根底にある。
ともすれば、カソックの男が人間でありながら精霊魔術を行使する精霊魔術師たる男が、能力の制約を受けている事も容易に想像できる。
ただ、これはあくまでも魔法陣が持つ安全機能の話で、精霊の能力を双方がどのように使うかは当人たちで決める必要がある。
カソックの男が使っていた精霊魔術は元を正せばヘルの能力。
爆発の火力に差が出ることについて力の制約が関係しているとは断定できないが、これだけは言える。カソックの男とヘルにこちらを殺す気が本当にあるのならティアが覚醒してしまえば手を抜く必要などない。イアンが対象をずらす技術を持っていたとしても関係ない。邪魔ならば最大の火力をもって消せばいい。二人同時に精霊魔術を使っていれば裏通りの一角を吹き飛ばした一度目の大爆発で事は終わっていたはずだ。
リッキーの中でそんな思考がそれこそ爆発的に展開されていく中、イアンが畳み掛けるように言った。