第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う
こちらへ向かっていた骸骨たちが、何の間違いか真横を掠めるような形で進路を変えたのである。それこそ目測を誤り、狙いがズレてしまったかのように。
照準をリッキーとイアンから外して真横を通過していった骸骨たちはそのまま直進して突き当りの家屋へ殺到。直後に二度目の大爆発が巻き起こった。
一度目よりも火力を増した爆風を掻い潜ったリッキーとイアンは立ち込める煙に乗じて手近な家屋の陰に駆け込む。
「テメエまた何かしやがったな」
壁に背を預けてリッキーは顔をしかめる。
爆発の対象をずらした。
イアン風にいえば、そういう事だった。
「向こうが単調で私は助かる」
しかし、こうも連続で爆発の対象をずらす技術を使ってイアンの身体が反動に耐えられるのか。リッキーにそれを量ることはできない。
本人の状態を案じたところでやめる事はないし、逆にやめようとしなくなりそうなので言及することはないが、実際、イアンが吐き出す血量は増えている。
そこから察するに、身体にのしかかる負荷は雪だるま式に増えていると考えるのが妥当だった。
──今はイアンが動けているから良い。
だが、もしもイアンが反動に耐えられなくなったら。
苦い顔をするリッキーの胸中を読み取ったのかイアンが淡泊に言う。
「安心しろ。消耗戦にはならない」
「……そうかよ」
「ただ」
「?」
「理解に苦しむ」
イアンは口元を拭い、頭を垂らして呟く。
「爆発の力は共有しているはずなのに、火力に差があるのは何故だ」
「何故って……そんなの……」
「それに標的を一つに絞っているのも分からない……何か法則性があるな」
咳交じりにイアンは声を吐き出す。
「人間が自分の行動に対して思い留まる事ができるのは、個人の意思に依存しているからだ」