第二章 危殆はトラブルと共に
例えばリッキーが黒い狼の精霊を相手にさえしていなければ。例えばリッキーがティアの契約にもっと上手く立ち回れていれば。
全て。
リッキーがどれか一つの事象にでも関与しなければ、起こり得なかった事であると証明されていた。
──全部、俺のせいだった。
リッキーは、更に奥歯を噛みしめた。
ぎり、ぎりと音が鳴る。
悔しさで全身が震えた。破壊しか生み出すことのできない拳を力いっぱい握りしめた。リッキーはティアのみならず、ただ巻き込まれただけの子供の命までも救う事ができない。
リッキーは、宙に浮くティアを見る。痣は無く、その代わりに大翼が生えたティアを。
魔法陣を宿した瞳は赤く虚ろで生命を感じない。そこから読み取るに明確な意識があるかどうかも分からない。
もしかするとティアは苦しいのではないだろうか。人格を抑えられ、女神としての意思を強制的に引き出されているのではないだろうか。
何故、自分はこんなにも無力なのだろう。誰かを助けることすらできないのだろう。
歯痒い。
歯が割れてしまうほど噛みしめた。噛みしめて噛みしめて噛みしめて。自分に出来る事はもう何もないという現実も噛みしめて。
でも、それでも。
自分のせいでこんな未来を迎えてしまった幼女だけでも何とかしてやりたいと思うのは、想ってしまうのは──
「ほう。じゃあ、つまり、認めるんだな?」
と。
それまで黙り込んでいたイアンが唐突に口を開いた。
今までわざと口を挟まなかったとでもいうような。それでいて、カソックの男が答え全てを勝手にバラし終わるのを待っていたかのような、そんなタイミングで。