第二章 危殆はトラブルと共に
確かに、この街では最近になって子供が姿をくらます事件が増えている。それこそ神隠しにでもあったかのように忽然と姿を消す事案だ。
「? それと何の関係が、」
言いかけてリッキーは言葉を止めた。
もしもこの子供の失踪事件が仕組まれたものだとすれば。
女神の覚醒と関連があるのだとすれば。
──まさか……?
リッキーの首筋を嫌な汗が伝う。
それを見たのか見ていないのか、カソックの男は、
「今度は勘付くのが早かったな。そうだ。失踪事件も黒霧の力のせいだ」
にんまりと笑った。
「女神が伝説通りの存在であるなら彼女は人の純粋な願いに呼応するはず。それならば『神隠しにでもあったかのように忽然と消える』という超常的な失踪を遂げた方が、見えないものに捧げる祈りや願いも強まると思ってね」
たったそれだけの為に。
たったそれだけのために何の関係もない子供たちをこの男は攫ったというのか。
「ああ。集めた子供は女神の糧になる予定だ。子供が持つ量の魔力程度で女神が満たされるとは思えないが、子供のそれは純粋で純潔で純真らしい」
ならばその清い力は女神をより強固にするはずだ。とカソックの男は続けて言う。
「魔力の根源の心臓は柔らかいぞぉ……子供のは特に、な」
「──クッ、ソ野郎が……!」
リッキーは奥歯を噛み締める。
何がこの男をここまでさせているのか理解が追い付かない。子供を柱に女神などという存在を顕現させるなど、まともな人間の考えではない。
この男は危険だ。
リッキーの体細胞が震えて警告する。ここで止めておかなければならない人間だと細動して警鐘を打ち鳴らす。
同時に、これで全ての事象が繋がった。
ティアが追われていた理由も。失踪事件の真相も。
何かが一つでも変わっていれば、こんな状況にはならなかった。