第二章 危殆はトラブルと共に

「女神が完全に目を覚ますには膨大な量の魔力が必要なのは君も知っているだろう。私は不確定な存在である女神を探すよりも、ひとまず魔力量が多い人間を探した方がはるかに楽だと思って探索をしていた。それこそ、精霊の姿を変貌させてしまうほど狂った量の魔力を持った人間を」

 と言っても探すのは私ではなく精霊魔術の方だが。とカソックの男は薄っすら笑う。

「ヘルの黒霧には探知能力があってね。それを利用して君を見つけた」

 そうは言っても、まだ分からない。

 リッキーが黒霧に関わったことといえば昼間の街中での事ぐらいしか無い。しかもその時はリッキーではなく、ティアを追跡していた霧纏いの骸骨に巻き込みで関わりを持ったぐらいだ。

 だが、男の話からすればリッキーはそれ以前より黒霧と関わりを持っていることになっている。

「おや、まだ気付かないか。君は遭遇しているはずだよ。黒い精霊に」

 それを聞いてリッキーは一瞬だけ逡巡したが、すぐに思い出した。

 脳裏に浮かぶ精霊──狼の顔を持つ黒毛の人外の事を。

 夜闇の中での遭遇ということもあって見落としていたのかもしれない。黒霧の存在などリッキーはその時全く感じなかった。

「ああ、その顔は思い出したな」

「……」

「まあ、そのような感じで君は選ばれた訳だ」

 これでリッキーが街中で遭遇した骸骨に攻撃の標的にされた理由は分かった。

「ちょっと待て。俺が追跡されてたのは分かった。でもそれじゃあ、なんであのバカが骸骨に追われてたのか説明がつかねえ」

 その通りである。

 カソックの男はまずリッキーを探していたと言った。

 ならば、なぜ先駆けてティアは追われていたのか。

 カソックの男はふつふつと語り出す。

「この街で起きている事件を知っているかね」

「事件……?」

「子供の失踪事件だよ」