第二章 危殆はトラブルと共に

 骸骨が纏うそれとは比べ物にならないほど色濃い霧は徐々に人影を成していき、ほどなくして濃霧の中から裸体の女性が姿を現した。

 黒霧を纏い、足元は顕現が不完全で消え入りそうになっていてふわりと宙に浮いている。黒の麗髪で片目を隠し、艶のある唇と憂いを帯びた瞳が妖しく光っていた。

「紹介しよう。彼女はヘル」

 霧を媒介に死者の魂を操る精霊だ。と男は告げる。

 精霊。

 人とは別の高位生命体。ということであれば、カソックの男が操る骸骨や爆発の正体も説明がつく。

 恐らくは、

 ──精霊魔術、か……!

 とリッキーは眉を寄せる。

 そして精霊魔術が使えるということは、カソックの男はヘルと呼ばれる精霊と精霊契約を結んでいることになる。

 精霊契約とは、人間と精霊の間で交わされる魔力に関する相互支援的同盟のことだ。

 その内容は、人間は体内で精製される魔力を差し出し、精霊は魔力を受け取る代わりに自らの力を貸し出すものとされている。つまり、カソックの男とヘルと呼ばれる精霊二人の間で躱されている契約でいえば、カソックの男が魔力を差し出す代わりにヘルが死者の魂を操る精霊魔術を貸し出していることになる。

 ──って事はあのバカを追ってたのは骸骨じゃなくて、

 最初からその裏にいたカソックの男であったということにリッキーは気付く。

 しかし、疑問が残る。

 女神が実在するなんて未だに信じがたい話ではあるが、何故カソックの男はティアが女神であると分かったのか。

 それについて問うと、言葉はすぐに返ってきた。

「いや。この子供が女神であるなど私には分からなかったよ」

「……どういう事だ?」

「私が目を付けていたのはリッキー君。君だ」

「あ?」

 そういえば、男は先ほどもそのような事を言っていた。

 女神の完全覚醒にはリッキーが必要であると。