第二章 危殆はトラブルと共に
そんな中、翼の生えたティアといえばまるで彼女だけが何事も無かったかのように悠然と平然と浮き続けていた。風圧に押されることも無く、爆風に吹き飛ばされた家具すら弾いて寄せ付けず結果として傷一つ無かった。
しかしながら、単純にティアに怪我が無くて良かったと胸を撫で下ろせる状況ではない。
異常だ。
異常で異状で超常だ。
リッキーは爆炎の残骸である火種があちらこちらで芽を灯し始める中、立ち上がりながら状況を整理する。
目の前にいるカソックの男が取った爆発の兆候と思しき直前の行動。空気を引掻くように何度も何度も指を歪に動かしていたあの仕草。
加えて、
──骸骨だと……!?
骸骨と爆発。
それは奇しくもリッキーが数時間前に遭遇した現象と同じものだ。
リッキーは黒を纏った骸骨に追われていた。幼女を抱えたリッキーは、爆殺の腕を持つ無数の骸骨から逃げていた。
骸骨が纏った黒いローブのような霧は物理的な干渉を受けない。むき出しになった頭部だけが唯一の弱点。腕への接触は即座に爆発を引き起こすため、攻撃の的にはなり得ない。そして仲間同士で吸収し合って形状を変化させる一幕も目撃している。
先ほど男が放った骸骨は、リッキーが昼間に出くわした物と明らかに同種だった。
「おや。頑丈だな君は」
「……あん時の骸骨もお前の仕業かよ?」
リッキーの問いに男は答える。
「まあ、半分私のせいだとでも言っておこうか」
そして、と男は続けて、
「もう半分は彼女のせいだ」
カソックの男の背後に黒い霧が立ち込める。