第二章 危殆はトラブルと共に
あとは魔力穴の機能も回復していれば。
イアンは確認のため、幼女の体に手を伸ばし──伸ばして、触れる寸前で異変に気付いた。
ばちり、と。
幼女の双眸が大きく見開かれる。本来、蒼であるべきはずのその眼は怪訝なことに燃えるような朱へとその色を変えていた。
幼女の異変はそれだけに留まらない。
小さな体が何に支えられるでもなく宙に浮いたのだ。
力なく投げ出された手足は浮遊に伴いぶらぶらと揺れ、仰向けのまま上昇していた体は一メートル程浮上してからリッキーたちを見るように向き直る。
目が、合った。
朱の瞳に、捉えられた。
光を失い、焦点の合っていない幼女の瞳は、さながら人形のような印象を受ける。
何が起こっているのかリッキーとイアンは理解できなかった。魔力回復の薬を与え、一時的な回復は成功したというのにこの状況は一体どうなっているのか。
目に飛び込んでくる情報全てが理解不能で、普段は冷静沈着なイアンでさえも驚きを隠せなかった。
そして更に驚くべき事に、次の瞬間、幼女の背中から──純白の翼が生えた。