第二章 危殆はトラブルと共に

 果たしてこの妙薬が、魔力穴の稼動に至るまでの魔力量を持っているのか。果たして魔力回復が魔力穴の再稼働に直結するのか。

 実のところイアンをもってしても精霊の体の構造については把握しきれていない。むしろ知らない事の方が多い。

 ただ、

「やってみる価値はある」

 これでもしも駄目ならば他の策を練ればいい。望み薄だし時間も少ないが、数を打てば当たるという事もある。

 他人の命が懸っている状況ではあるが、人はそうやって学び、進歩してきたのだから。

 ただ一つだけ念を押すとすれば、失敗は許されない、という事だろう。

 そんな懸念材料を背負いながらも妙薬はすぐ幼女に投与された。

 小さな口を僅かに広げ、流し込む。

 微かに発光するその液体は幼女の口腔から食道を伝い、体内へ。

 ゆっくりと、ゆっくりと注がれる液体は数十分かけてようやく底を尽き。そして──

 幼女の痣が、消えた。

 幼女を蝕んでいた青痣が、消えた。

 幼女の腕が、幼女の腹が、脚が、足が。

 全てが巻き戻しのように姿を取り戻す。あっさりと、呆気なく、あっけらかんと。本当に今までの焦燥や懸念は何だったのかというくらい、それはもう呆気なく。

 有体に言えば魔力の回復に、

「お、おい。イアン……これって」

「ああ。お前、運がいいよ」

 成功したのだった。

 魔力不足を表す青痣。それが消えたとなれば自然、魔力の回復に至ったと同義。

「よかった……本当によかった」

 膝をついてリッキーは幼女を見る。

 これで失わずに済むかもしれない。過去の過ちを繰り返さずに済むかもしれない。暫定的には。