第二章 危殆はトラブルと共に
子供は誘拐され、そして殺された。この事象を付け加える事により事件の内容は失踪から殺人へとすり替わる。殺人ともなれば怒りの矛先は、捜索すらまともにできない無能なアザリア中枢から子供を殺した犯人へと移る。
用意するのは全く関係のない子供。
居なくなっても初めから居ない人間。ただ、それだけ。
加えてヒューゴーは、こんなことも言っていた。
街路児は、表向きには先代の王がくまなく探し出し、ありとあらゆる手段をもって救済したが、人間社会の闇はそう簡単に無くなりはしない。
しかも使い勝手が良いモノだから、王都すら研究個体としておいしく使っているのだと。
とは言うものの、ヒューゴーの話のどこまでが撒き餌でどこまでが本当の事なのかという判断は現状できない。
王都がそんな事をやっている証拠など何処にも無い。あるのは、自分が漏らしてしまった街の機密情報。
乗せられさえしなければ。
口を割りさえしなければ。
だから男は従うしかなかった。
何も言わずに部屋を出たヒューゴーに、ただただ従うしかなかった。ヒューゴーの言葉の端々から、下手な真似をすれば手を切るという真意を読み取ってしまったから。
王都からの使者ヒューゴーの行先は、決まっている。
街路児が隠れ住むところと言えばこの街には五万と存在する訳だが、街路児のコミュニティーの中にも中枢といえる場所が存在する。
法の目を掻い潜り、暗黙的に了承されているアンダーグラウンド。
汚れて、廃れて、寂れた、裏通りのスラム街がくだんのそこである。