第二章 危殆はトラブルと共に
しかし、それは到底許されることではない。
──私は……なんという事を……!
男は頭を抱えて歯を振るわせる。
初めは、軽い気持ちだった。
去年、視察に訪れた王都の人間は、単純に金銭程度で買収が可能だったのだから。金銭程度で裁定基準を改ざんできたものだから。
だから、今回も金さえ積めばなんとかなるのではなかろうかと。問題なんてものは簡単に揉み消せると、男は高をくくっていたのだ。
しかし今回アザリアに訪れたヒューゴーという男は、金も何も見返りなど必要ないと断言した。
無償というのは、時に何よりも事の重大さを突きつける。
何故ならそれは、利害関係や等価交換の摂理を大きく無視したイレギュラーだからだ。
これをやるからあれをやれ。という図式が成り立たない。これとそれを交換しようという意識の共有ができない。
だから今回の件は、例えばヒューゴーが暴露するような事があれば、それで全てが終わる一方通行なのだった。
元より街路児とは、都市国家があらゆる方法をもって救済しなければならないカテゴリーにいる人間。つまり存在する事自体が都市国家の怠慢なのである。
それをヒューゴーは、秘匿すべきその情報を男から誘導する形で引き出した。口車の口転がしで。つまるところ男は、いつでも入力可能な爆弾のスイッチを握られてしまっている状態にあるのだった。
男は身体を振るわせながらヒューゴーの言葉を思い出す。