第二章 危殆はトラブルと共に

 リッキーとマルスの詠唱を基礎とし、それを補強するかたちで魔法陣外周に点在する補助者が追加の呪文を読み上げる。そして終わると同時に魔法陣が回転しながら収縮し、マルスの身体を駆け上がって差し出した右手に到達──再び展開。

 リッキーは聞かされていた手順通り、マルスの右手で展開された魔法陣に触れた。

 その直後だった。

 硝子が割れるような甲高い破砕音と共に魔法陣が崩れ落ち、どこからともなく風が巻き起こる。その風がマルスの足元から湧き上がってきていると気付いた時には風は瞬間的に速度を増していて、瞬く間に強風となり、砂塵を纏って吹き荒んでいた。

 強烈な風にリッキーは視界を奪われる。

「っ──」

 ぴちゃり、と。

 右腕で顔を覆って前屈みになり風を堪えていると、唐突に右手に水気を感じた。手首をひねって手のひらを返すとそこには赤が。数瞬すると手のひらだけに付いていたその赤が風に乗って殺到する。

 リッキーは赤にまみれながら、見た。

 砂塵の中から飛び出す巨大な毛むくじゃらの脚を。

 次いで左腕が砂嵐から飛び出し、地面へ向かって振り下ろされ突き刺さる。地面を揺らす左腕も脚と同じく毛むくじゃらで、熊のような鋭い爪を携えている。

 そして、突如として木霊する咆哮が暴風をかき消した。

 明瞭になる景色。

 その中心にいるのは、異形。

 全長三メートルは下らない巨大な獣のような生き物だった。

 しかし一カ所だけ。異形の右腕が人間の腕をしていることにリッキーは気付く。気付いて、右手の小指を見て絶句する。

 なぜならそこには、見慣れた指輪が付けられていたのだから。