第二章 危殆はトラブルと共に

「お前、線目だから分からねえよ」

 というか、マルスがなぜ今になってそんな日常の中での注意点なんかを言い出すのかリッキーには分からなかった。マルスの言葉を借りれば、すぐに知る必要は無くあとから理解すればいいのだろうが。

 そういえば、とマルスは更に続ける。

「地理学は北半球の左と中央あたりまでしか教えていませんでしたね。地理学は覚えておいて損はありません。これからも勉強してください」

「ん」

「友達も作らないと駄目ですよ? 坊ちゃんはコミュ障だから心配です」

「うるせえな分かってるよ」

「それと」

「まだあるのか」

「それと最後に、」

「ん」

「…………こんな形で力の使い方を教えることになってしまい、申し訳ありません」

 見間違いか。

 マルスの顔が一瞬だけ悲しげなものに見えたのは。

 リッキーが少し戸惑っているとマルスが立ち上がって言った。

「そろそろ時間ですね」

 服の裾についた土埃を払いながら魔法陣の中心へ向かうマルスの背中を追うようにリッキーも続く。

 魔法陣が描かれた地面を踏むたびに足が重くなっていくように感じる。心なしか呼吸もし辛いような気もする。

 緊張しているのか?

 そう思うも、明確な答えはリッキーには見つからなかった。

 そうこうしている内に魔法陣の中心に到着。

 リッキーとマルスは対峙して互いに右手を差し出す。

「坊ちゃん」

 不意に呼ばれ、リッキーは反応をし損ねた。しかしマルスはお構いなしに続けた。

「貴方と一緒に過ごせて、楽しかったです」

 そのすぐ後にマルスの指揮の元、儀式の詠唱が始まった。