第二章 危殆はトラブルと共に
フードを深くかぶって顔が伺えないそれらを見てリッキーは図らずも訝しんだ。
「詠唱の補助者です」
横からマルスが説明する。
「大きな魔法陣ですから、それを扱うのにも大きな力が要るということです」
リッキーは魔法陣(そちら)のことはからっきしだから、説明を受けても何が何だか分からなかったが、とりあえず頷いておく。
「さて、定めの時間までまだありますね」
言ってマルスは壁に寄って腰を下ろす。
「坊ちゃん。少し話しませんか?」
「ん」
「お座りください」
「ん」
地面に敷かれた布を取り、リッキーはそれをマルスに突き返して地べたに座り込む。
「気遣うなよ」
マルスは返された布を掴んで口元を緩ませる。
「今朝、坊ちゃんが作ってくれたベーコンエッグ。あれは傑作でしたね」
「そうかね?」
「はい。チーズが絶妙に合っていなくて」
「そうかね!」
「私、チーズ入りのベーコンエッグを食べたのは生まれて初めてです」
「バカにしてるな! お前バカにしてるな!? 言っとくけどあのチーズ作ったのマルスお前だからな!?」
「はっはっは。ちょっと何言ってるか分かりませんね」
明朗に笑うマルスにリッキーはメンチを切る。
「まあ、これを機に料理を勉強することです。あと食材選びは季節に気を付けること」
マルスはそのまま続ける。
「坊ちゃんは知らないでしょうけど、寝ている時の歯ぎしりをやめるように。見てください私の顔を」
「ん?」
「歯ぎしりがうるさくて夜中に目が覚めてしまうせいで、目の下にくまが出来てしまっているんです」