第二章 危殆はトラブルと共に

 しかして実際問題、何かが起きてしまった場合はどうすればいいのか。

「まあその時はその時で」

 サラリと言うマルス。

「ずいぶん簡単に言うな……」

「人生には、受け入れなければならない事というのも往々にしてあるのですよ」

「?」

「もう少し長生きすれば坊ちゃんも分かります」

「なんかマルス年寄りくさい」

「はっはっは。今世百余年も生きていれば年寄り臭くもなります」

「百っ!?」

「精霊的に言えばまだまだ小僧ですけどね」

 それは置いておくとして、とマルスは一呼吸置いて、

「とりあえず、目の前で何が起こったとしても起こった事をしっかり受け止めてください。理解できなくても良い。意味を知るのはそのあとでも良いのですから」

 柔和に笑って線目を更に横に伸ばした。

「どうです? 不安は取れました?」

「んなわきゃ無いだろジジイ」

「ふむ。では、明日の儀式で使う詠唱のおさらいでもしておきましょうか」

 言いながらマルスは地面から腰を上げて手を差し出す。リッキーもそれに倣い、立ち上がって右手を前へ。

「頭からいきますよ。『お前は心臓を差し出す』──」

 朱色から濃紺に世界が色を変える。二人のおさらいが終わるころには空はとっぷりと夜に浸かっていた。

 そして明くる日の早朝。

 リッキーとマルスは儀式の準備が施された洞穴に訪れていた。

 洞穴の中央には直径約十メートル程の大きな幾何学模様が描かれていて、その周りをローブを着込んで腰に剣を差した人間十二人が等間隔を空けて囲んでいる。