第二章 危殆はトラブルと共に
契約の前段階として同調率は鑑定済みであり、それについて二人の間に問題は特段見つかってはいない。
だが心配なことがリッキーには一つあった。
「もしも契約がうまくいかなかったらマルスはどうなる……?」
薄紫髪の青年もといマルスは眉を寄せる。
「うーん……どうなるんでしょう。私も契約を結ぶのは初めての事でして」
「マジで?」
「マジです」
「……マルスにも知らないことがあるんだな」
聞けば即答。答えは明確。
何を聞いても答えを返してくるマルスに対して、リッキーは子供ながらに尊敬の念を抱いていた。それこそこの世に知らない事なんて無いんじゃないのかと思うほど。
別に落胆した訳ではない。
リッキーの表情が暗くなるのは、腹の底から滲み出てくる不安を自分ではどうにもできないからだ。
そんなリッキーの胸中を察してか、マルスは口を開く。
「案ずるより産むが易し」
「……?」
「あれこれ考えるより、やってみたら案外簡単かもしれない。東の国の言葉です」
「あれこれ……考えるより?」
言葉を反芻するリッキーにマルスは頷く。
「こんな事を言うのはアレですが、坊ちゃんは思考タイプではないです」
「お?」
「だからこそ私がいるわけでして」
つまり、とマルスは続ける。
「あれこれ考えるのは私の役目。坊ちゃんはどっしり構えていれば良いのです。今までだって私たちはそうやって進んで来たじゃないですか」
それを聞いてリッキーは、なんだか鳩尾のあたりに溜まる冷たい感覚が薄らいでいくような気がした。