第二章 危殆はトラブルと共に

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 十二年前の事である。

 最初に結末から言えば、リッキーは精霊を殺した。

 齢十二になったばかりの非力な子供が誰かを殺めるなど、まったくもって突拍子もなく、理解もしがたい荒唐無稽な話ではあるが、リッキーは確かに精霊を、親も同然である者をその手で殺害したのだ。

 以下、回想。

「坊ちゃん」

 肩を軽く揺らされ、少年リッキーは目を覚ました。

「起きてください。そろそろ戻りますよ」

 服の袖でこする寝ぼけ眼に、こちらをのぞき込む青年の顔が映る。

 薄紫色の長髪を後ろで結った線目の青年の顔を見ながらリッキーは尋ねた。

「……どれくらい寝てた?」

「そうですねぇ」

 薄紫髪の青年は空をちらりと見上げて、

「まあ、ちょっと……ですかね」

 身体を起こして上を見ると、眠る前までは突き抜けるように青かった空がいつの間にか茜色に染まっていた。

「どこがちょっとだよ。もう日暮れじゃん」

「仕方がないですよ。午前は明日の準備で坊ちゃんもお疲れだったようですし」

 明日の準備。

 そう。明日は大事な儀式がある。

「…………うまくいくかな」

 不安げな声でリッキーが言うと、薄紫髪の男は尋ねる。

「心配ですか?」

 その問いにリッキーはこくりと神妙に頷いた。

 明日、二人は精霊契約に臨む。

 精霊契約とは、人間と精霊が魔法陣を介して互いが互いの力を互いが都合のいい形で貸し合う契約の形態である。精霊契約は締結の是非を問う基準として、人間と精霊双方が持つ魔力の波長の同調率の高さを最たるものとしている。