第二章 危殆はトラブルと共に

 国家の大臣から法外な医療報酬を要求したり、時にはその筋の人間の夜逃げを手伝うように大がかりな整形手術を請け負ったり、そうかと思えば僅か数分で手術を終え、瞬きすれば机に大金が積まれているような輩をなんと呼称すればいいのか。

「私はイアン・デクスター」

 それ以外の何者でもないと吐き捨てて、銀髪の闇医者(モグリ)は近くの椅子に腰かけた。

「だから私は精霊を診ることもできる。ただ、あまり期待はするな。この状態の精霊を診るのはこれで二度目なのだからな」

 思うにこの子供は、とイアンは一拍置いて告げる。

「魔力切れを引き起こしている」

「魔力、切れ?」

 聞き慣れない言葉にリッキーの頭に疑問符が浮く。

「聞くのも初めてだろう。なにせこの症状、魔力を糧とする精霊にしか起こらない。とは言っても精霊にはこの状態を回避するため、空気中を漂う微量な魔力を吸収する習性があるんだが……」

「?」

「この子供は、そのための魔力穴が全て閉じているように思える」

 魔力穴は人間でいうところの毛穴の中にある。

 イアンが触診したところ、身体中にあるはずのその穴がこの幼女は機能していないのだと言う。

「これは精霊の中でも貴種というより奇種。精霊が魔力を得る方法としては、人間と契約する、というのも選択肢の中に含まれているが……契約済みならこんな事にはならない」

「……じゃあ、どうやって魔力の補給をしてたっつーんだよ。こいつは」

「別の方法もあるにはあるが……そうだな、例えば」

 イアンは幼女の顔に手を置きながら言う。