第二章 危殆はトラブルと共に
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無言で。
ただ無言で。
走らせる。目を。手を。
そして、机の上でくたりと横たわる幼女の容体をひとしきり診終えたところでイアンはポツリと洩らした。
「やはり。この子供……精霊か」
イアンの言葉をリッキーは首を縦に振って肯定する。
「脳筋。お前、当てが私しかなくて良かったな」
「……そりゃどういう意味だ?」
「はっきり言って、この街に精霊を治療できる医者はいない」
そんな事を言われ、リッキーは呆然とするしかなかった。
この幼女は助からない。その結論を一言の元に突き付けられ頭が真っ白になり、何も考えることができない。
しかしイアンはお構いなしに話を続ける。
「医者の領域の話をしよう」
極めて冷静に。
ともすれば、人が変わってしまったのではなかろうかというほどに説明好きそうな口調で。
「医者は全てを救える者でもなければ総べてを知り得る者でもない。知っている事だけ。常識的な事だが、普通の医者は自身が持ちえる領域に関することでなければその真価を発揮することは出来ない」
いわく、専らに受け持つ専攻以外に関しては存外脆い。
例えば獣医。
「そいつらは、その範囲の中でしか動く事ができない。人体についても学ぶことは学ぶが予備知識程度だ」
というよりも、それ以前に、因果応報に。
この街に精霊を治療できる医者は居ないということは、イアンもそこに含まれるのではないかという問題にぶち当たる。
では、先に放った思わせぶりな科白は見栄からきたものなのか。自分の事は棚に上げ、同属を蔑んでいたというだけなのか。