第二章 危殆はトラブルと共に

 ならば、死んでいる状態で尚且つ顔や指紋など、身体的特徴が出る部分を抹消してしまえばその子供が本人であろうがなかろうが分からないのだ。

 ヒューゴーはクロークの男に問う。

「林檎が入った木箱があります。全て赤林檎。全て完熟。あなたはその中の一つを食べようとしたのですが、何かの事情で一口だけかじり、木箱に戻してその場を去りました。そしてそれから少ししてから続きを食べるために木箱の所に戻ってみると、木箱に入った全ての林檎がそれぞれ一口だけかじられていたのです──というような状況に陥った場合、あなたは自分がかじった林檎がどれだか分かりますか?」

「……いえ」

「そうです。分かる訳がないんです」

 断言して、ヒューゴーは軽快に走らせていたペンを止めた。

 インクが綴る文字は、街の景観について纏め終えていた。

 しかしながら、失踪した子供の代わりになる子供などという都合のいい人間が果たして存在するのか。

 それに対する答えをヒューゴーは言い放つ。

「この街にもいるはずだ。街路児が、ね」