第二章 危殆はトラブルと共に

 淡々とやり取りされる中、双方から飛び出す共通の言葉。

 噴火。

 前述した通り二十年前、アザリアの街に多大なる被害をもたらす災害があった。

 その時は、降り注ぐ岩石や火山灰の影響で人が住めるような土地ではなくなってしまったのだが、時の流れと共に復興を遂げ、現在に至る。

「いやしかし良い街だ。かの大災害からたったの十数年でここまで」

「民のおかげです」

「馬車で簡単に回っただけではありますが、なんといっても街人の活気が良い」

「皆、必死なのです。かつてのアザリアは、今より遥かに栄えておりました故……おっと無駄話が過ぎましたな」

 苦笑しながらクロークの男は紅茶を拭きとる。

 ヒューゴーはすかさず、

「いえ、私が話を脱線させてしまったのですから」

 簡素に返してペンを走らせる。

 手元の羊皮紙は、街の景観、治安、住民、商工業等々、裁定基準に関わってくる判断材料を報告するための調書である。

 その証に、羊皮紙の最上段には猛禽類の翼を模した王都の刻印が。最下段にはヒューゴーのサインがそれぞれ刻まれていた。

「途中の行商の事は目を伏せて頂けると嬉しいのですが」

「考えておきましょう」

「それで、ヒューゴー殿……例の件ですが……」

 例の件。

 伺うような男の言い回しに、ヒューゴーは一瞬だけ思案した。

「その……揉み消すといいますと……」

 そしてすぐに思い出す。

 ──ああ。子供の失踪の話か。

「具体的にはどのように……。断じて疑っている訳ではありませんが失踪については、子供の親類が事態を把握してしまっております」