第二章 危殆はトラブルと共に
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テーブルの上にある陶器製のカップとソーサーが、カタカタと音を立てながら揺れる。家具もそれと共に小さく揺れ、軋んだ音を室内に響かせた。
窓の外からは街人たちのどよめき。
「地震……か?」
ヒューゴーは、カップからこぼれた紅茶を見ながら静かに洩らした。
片手には羽根ペン。
幸いにも、カップの近くに置いていた羊皮紙に被害は無い。
「おや、そのようですね。地震など滅多に起きないのですが」
紅茶を拭き取りながら正面の男は言う。
室内であるにも関わらずクロークは着用したまま。
山暮らしの人間は寒がりなのか、それとも感覚が鈍いだけなのか。そんな事など正直言ってどうでもいいのだが、仕事で来ている以上、最低限の身の振りはしておかなくてはならない。
全くもって面倒な事この上ないな、とヒューゴーは心の中で呟く。
ヒューゴーはアザリア中枢のとある建物の中に居た。
中枢といっても、ヒューゴーが在籍する王都のような絢爛豪華な装飾は目に付かない。しかしながら質素でもない。
壁には有名画家の作品が掛けられているし、片隅にある台には調度品が並べられている。腰を掛けている長椅子については色こそ地味だが素材は一級品。客室というカテゴリーでいえばむしろ悪趣味な赤を集める王都のそれより清潔感に溢れていた。
「このあたりは、何か地震が発生する要因でも?」
と、ヒューゴーは、さも興味あり気に尋ねる。
「まあ、無くは無いですが」
「ほう?」
「二十年程前に噴火して以来、休止状態に入っている火山がありまして」
「二十年前? ああ、あの大噴火はアザリア近郊で起こっていたのですか」