第二章 危殆はトラブルと共に

 たった六日程度の付き合いの幼女を救いたいと思ってしまっている自分がいる。なぜこんな気持ちに駆り立てられているのか、正直なところ自分でも分からない。

 だが、どこかの誰かが、それこそ見ず知らずの誰かが目の前で苦しんでいる時、見捨てるような真似ができるほどリッキーは器用な男ではなかった。

 何より、もう誰かを失うのは嫌だった。

 自分の力だけではどうにもならない事など、世界には五万とある。

 他人の力を借りなければならない事があったとしても、それは恥ずべき事ではない。

 だから、幼女の身体を蝕むこの痣が一体何なのか教えてくれるだけでもいい。たとえ分からなくともこの幼女を診てくれるだけでもいい。

「……頼む。コイツを、診てやってくれ」

 消え入りそうなリッキーの声。

 助けを乞う相手が相手だ。どれほどの感情を押し殺しているのか知れない。

 イアンはそんなリッキーから幼女へ視線を移す。

 直後、イアンの顔色が一変した。それこそ、末期症状の難病患者でも診るような衝撃に満ちたものへ。

「その子供」

 舌打ちをしてリッキーの元へ駆け寄り、イアンは幼女を取り上げる。

「……なるほど。おい脳筋、良く聞け」

「! 一生の頼みだ。俺には今、金が無え。金は無えが絶対払う! だから──」

 言いかけてリッキーは言葉に詰まった。イアンが再び眉を寄せて怪訝そうな表情をしていたからだ。

「やかましい」

 銀髪の闇医者は幼女の痣を撫でながら、一拍置いて焦燥するリッキーへ向けて告げる。

「御託は後にしろ。子供の命が懸かってるんだぞ」