第二章　危殆はトラブルと共に

　無理もない。リッキーがイアンに面と向かって頼み事をするなんて今まで絶対に無いことだったからだ。

「…………聞き間違いだろうか。今お前は、私に頼みがあると言ったのか？」

　その問いに小さく頷いて答えたリッキーは、腕に抱えた幼女をイアンに見えるように差し出す。

「こいつを、助けて欲しい」

　精霊という名の高位生命体。

　人間とは別種の生物。

　ここに来るまでどれほどの医者の元を回り、幾度門前で追い払われたか知れない。幼女の診察も叶わず、しかも金が無いという理由だけで。

　この世には等価交換という法則がある。

　価格や価値の等しい物同士を交換することだ。

　世界の至るところではこの法則に則り、数値化して商売を行っている。ただしこれはあくまでも暫定的なものであって絶対的なものではない。

　そんな市場のカタチが確立されている中、医者というのは自分の腕を商売道具としているわけで、言うなれば技術を売っているのだ。それは分かる。

　しかし、納得はいかない。

　何故なら、本来、命に値段なんて付けられないのだから。

　医者になる人間の気持ちなんてリッキーは考えた事もないし、考えようと思った事もただの一度もない。人の命を救う事が出来るのなら、なぜそれを振りかざして金を取る必要がある。

　人の命を救う事が出来るというのならば、それは、それだけで素晴らしい事ではないのか。

　こんな思いは夢絵空事だということも、リッキーは分かっている。綺麗事だけ並べても生きてはいけないという事だって。

　ただ、あんまりじゃないかとリッキーは思う。