第二章 危殆はトラブルと共に

 リッキーは思う。もしも手元に大金があったならば、この幼女は救えただろうか?

 ポツリ、と。

 雨粒が石畳に落ちて滲む。

 上を見上げてみれば、鉛色の空から水滴が。

 ぽつぽつと俄かに降り出した雨は少しずつ雨脚を早め、程なくして本降りになった。

 打ち付けられる雨の冷たさが身に染みる。腕の中で小さくなっている幼女の体は、それよりも冷たいのだけれど。

 気付けばリッキーは、とある裏通りに足を踏み入れていた。

 無許可で開かれた酒場や情報屋、占い屋など、建ち並ぶ家屋はどれもこれも胡散臭さと埃っぽさで溢れかえるものばかり。

 いわゆるスラム街。

 掃き溜めというに相応しい、街の裏社会を一纏めにしたような区域だった。

 建物で狭められた道はただでさえ日の当たりが悪いにも関わらず、雨雲で陽光が遮られて更に薄暗い。

 こんな、寂れて荒んで落ちぶれたような所に医者がいるのかと聞かれれば、満場一致でノーと合唱されるような場所だ。

 こんな所に最後の頼みの綱があるとは自分もつくづく人脈が無いな、とリッキーは自嘲気味に笑う。

 ──できる事ならここには来たくなかったけどよ。

 リッキーは諦めのため息をついてからとある建物の扉を開いた。

 古めかしい木製の扉が軋みを上げる。

 中に入ると、部屋の中央に横長のテーブルとそれを囲う様に配置されたソファーが見え、隅の方には木製の事務机が見える。少し視線を動かすと壁際には本棚が。ぎっしりと並べられていながら本の高さがそれぞれ揃えられているところを見るに、持ち主はかなり几帳面な性格をしているという事が覗える。