第二章 危殆はトラブルと共に

 が、

 それ以前に、 幼女には決定的な問題がある。

 ティアは精霊だ。

 人間とは別種の高位生命体。

 よしんば医者を見つけたとして、人間相手に発展を遂げてきた現在の医療が果たして精霊に通用するかは疑問だ。

 ティアは外見だけでいえば人と遜色ない。だがそれは、ただ単純にティアが人型であるというだけで、精霊の中には獣型の種も存在する。

 つまりは根本的に種族が違うのだ。

 そうなると体組成の段階で人間とは作りが違う可能性が高い。

 だから、ティアの身体に浮かび上がる痣が何のか。急激な体温の低下は一体何を意味しているのか。それを診断できる医者自体がこの街には居ない可能性が非常に高い。

 やりきれない状況だった。

 それでも、諦めるにはまだ早い。

 リッキーはそれから街中を走り回り、診療所という診療所の戸を叩いて回った。

 しかし結論から言えば、医者はいなかった。

 それは「精霊を診ることができる医者が」という意味ではなく、「金の払えないリッキーを見限って」という意味で、だ。

 何件回ったかなどいちいち覚えてはいない。ただ、門前で言い渡された言葉だけは、はっきりと覚えている。

 金が無いなら話にならない。

 ボランティアでやっている訳ではない。

 急患の受け入れはできない。

 無い、無い、無いの無い尽くし。金の切れ目が縁の切れ目とはよく言ったものだ。

 リッキーは、今日ほど自分の甲斐性の無さを呪った事はない。今日日無一文はさすがにまずいと軽々しく思っていた数時間前の自分を殴りたくもなった。