第二章 危殆はトラブルと共に
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「バカ精霊!」
未だ続く人々の逃げ惑う声を背に、リッキーはティアの元へ駆け寄った。
瓦礫の影で横たわる幼女の顔色は蒼白で、身体に浮かび上がった青は蝕むように痣の範囲を広げていた。
──まさか、
このまま死を迎えるような事はないだろうな。とリッキーの背中に嫌な汗が噴き出る。
リッキーは医者ではないが、かじった程度の知識はある。
例えば、体温が摂氏三十四度以下あるいは摂氏四十三度以上になると脳細胞が働かなくなり意識が消失してしまうことや、色素細胞の異常増殖や内出血によって表皮に痣が浮き出てしまうことなど、ティアの身に起きていることを何となく説明はできる。だが、そこに至るまでの原因については別だ。
病状とは、何に起因するかによって対処方法がガラリと変わる。
それを、にわか知識の素人が紐解こうというのが土台無理な話なのだった。
リッキーは、自分では何もできないことを改めて認識し、ティアを抱き上げて考える。
──こっから一番近い医者は……。
医療施設がある区画に行くには、広場から中心街へ続く通りを使うのが早い。
しかし今は通れない。
その道は、現在逃げ惑う人々でごった返し、事実上通行止めの状態である。
先ほどのように壁を走ることも出来るが、ティアを担いで動き回るということは、その反動はティアにも跳ね返るという事だ。ぐったりと動かなくなっているティアを見ると、同じ事が出来る訳もなかった。
とはいっても、医者は何も決まった区画だけに居る訳ではない。
アザリアは巨大な街である。
医者なんて探せば腐るほどいる。