第一章 トラブルは横暴幼女と共に

 リッキーの下方。

 もみくちゃになる人々。踏み砕かれた石畳。猫がつまらなそうにあくびをした。風が通り過ぎた。喧騒。逃走。異常事態。

 それら全てを置き去りに、リッキーは駆けて駆けて駆け抜ける。

 そして終わりを迎えた民家の壁の端を蹴り出して跳躍──この喧騒に似つかわしくない唯一無人である中央巨大噴水へ着地した。

 すぐさま上空を見上げてみれば黒霧を纏った骸骨五体が宙を舞っていた。

 リッキーは上を指さして言う。

「やれるか? バカ精霊」

 直後、空中にいた骸骨五体は更に上空から降り注いだ長剣総計十六本に頭と腕を貫かれ、そのまま地面に叩き付けられ、数秒してから粉となって霧散した。

 次いでティアが呼び寄せた十六の剣も光の粒子となって消え薄らいでいった。

 とりあえず、

「助かった、のか」

 ふひゅう、と息を吐き出しつつ、リッキーは噴水から這い出る。

 ──しっかし、参ったな。

 頭を掻きながら大通りの方を見てみれば、騒動が集結したにも関わらず逃げ惑う人々の姿があった。

 体を押し合い、我先にと小道に込んでいく。

 このままでは人同士のトラブルという二次災害が起きかねないわけだが、リッキーには最早どうすることもできなかった。

 というか、脇に抱えた幼女が居なければ今頃どんな事になっていたか。少なくとも、石畳破損や民家の外壁陥没破壊程度では済まされなかった事だけは確かだ。

 こんな状況下で問題があるとすれば、街の修繕箇所が増えてしまったという一点に尽きる。