第一章 トラブルは横暴幼女と共に
兎にも角にも騒動の元は排除したから、あとはその余波の処理を誰かに手伝ってもらいたいところなのだが……。
思いつくとすればアイリーンあたり。
ただし、この街の有様を見せたら真っ先に殴られそうなところである。
だからといってイアンには頼みたくないしと思案していたリッキーだったが、異変に気付いた。
心なしかティアの身体が冷たくなっている気がする。
リッキーはティアを抱き直して様子を確かめる。
「おいバカ精霊。大丈──」
言いかけて言葉が喉で詰まった。
代わりに、背筋を駆け巡る急激な悪寒に襲われた。
何故ならそれまで色白だった幼女の腕が足が腹が、全身が、青に変色し始めていたのだから。
触れた掌から異様なほどに体温を感じない。冷たかった。ただひたすらに。
──なん、だよ……これ。
青の侵食は斑。もうほとんど痣と形容しても間違いではなかった。
ティアの小さな口に耳を近づけてみると微弱ながら微かに息をしていることが分かる。体から伝う鼓動も弱々しい。明らかに衰弱していた。
こんな症状は見たことがない。
リッキーは医者ではないが一人で山暮らしをするにあたり、支障がない程度の知識は心得ているつもりだった。だが、頭に叩き込んでいる症例のどれとも似つかないその容体は、悪戯に焦燥を増幅させるだけだった。
それだけならまだしも、不意に背後ろから何かが軋むような音と共に、再び人々の声が木霊した。
「バ、バケモノだ」
「……っ!!」