第一章 トラブルは横暴幼女と共に
「ティアだかドアだか知らないけどね! さっきは助かったよバカ野郎!」
やっとまともな声を聴くことができ、リッキーは安堵する。だがいつものやり取りをしている場合ではない。
リッキーは幼女ことティアに聞きたいことがあった。
「バカ精霊。ちょっと聞きたいんだが、さっきの剣は実体のあるモノに有効な力なのか?」
「……そ、だよ。実体があるから……地面にも刺さる、んだか、んね……」
ティアの能力。
動く骸骨。
物体を通過する胴体。
「なるほど」
一瞬だけ思案したリッキーは神妙に呟いてから続ける。
「逃げ切るには、どうやらお前の力が要るっぽい! なんか体調悪そうだから無理かもしんねーが……いけるか?」
その問いにこくりと頷いて返すティアを確認したリッキーは、にやりと笑って踏み出しの一歩を爆発させた。
ごった返す人混みと、それを抜けた先にある広場が視界に飛び込んでくる。
少し視線をずらせば分岐する各ルートへ雪崩れ込む人々の姿が。しかしそんな中でも無人状態の領域は存在した。
石畳を砕きながら踏み出されるリッキーの剛脚はそこを目指す。速度は高速。家屋一軒丸ごと持ち上げる腕力もさることながら、それを体現するにはまず尋常ならぬ脚力が必要だ。
いうなれば大砲の砲台。頑強な基礎があってこそ力とはその真価を発揮する。
脚力は腕力のおおよそ三倍。メキリ、メキン、と歪な音を立てながら力の解放を加速させる脚はついにトップスピードに達し、次の瞬間、リッキーが民家の壁を駆けた。