第一章 トラブルは横暴幼女と共に
食材ばかり揃う区画で珍しい。しかも、この広場へは割と頻繁に買い物に来るのに、本屋があったことすらリッキーは知らなかった。
近づいてみると、軒先で平積みされた本の中に気になるタイトルが。
リッキーは手に取って適当にページを開く。
──……山菜か。
考えてみるとリッキーは、この街で山菜を売っている店は未だかつて見たことなかった。
単純に見つけられないだけで実は存在するなんて事もおおいにあり得る。
何せアザリアの街は、広い。
円形に造られた街の輪郭。
その中心を貫く石畳の大通りは全長約一キロの大動脈だ。
街の最も外側にある道に至っては、円を描くように連なっており、歩くだけでも相当な時間を要する。他にも、蜘蛛の巣のように張り巡らされた裏道小道がごまんと存在し、あらゆる区画を繋ぐ。
つまるところ、どこに何があるかを完全に把握しようとしても土台無理な話なのだ。
だから、たとえ他の区画に山菜屋が存在していたとしても関係ない。この広場に山菜売りが見当たらないのなら競争相手がいないから価格戦争も起きない。
それに、手に取った山菜図鑑には、健康に気を使っていそうな人たちが喰いつきそうな効能がずらりと列挙されている。
総括すると山菜売りは有りだ。
なんだか財布事情に光明が見えた気がしてリッキーは思わずにやける。
しかし惜しむらくは、この本を買う金すら今は持っていないという事である。