第一章 トラブルは横暴幼女と共に
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車輪が石畳を掴むたび、ガラガラと音を立てる。
アザリア大通りを走る一台の馬車。馬の嘶きが車輪の音と相まって周囲に通過の注意を促していた。
そんな馬車の中に、王都からの来訪者ヒューゴーはいた。
現在搭乗している馬車は先ほどまでの豪奢な物とは違い、木材で加工造形されたシンプルなデザインをしている。
内装も簡単な造りで、唯一、腰掛けのクッションだけ良質な素材が使われている。察するに客人への配慮だろう。背もたれに体を預けてみれば、腰掛けと同じような感触。
山間の都市国家にしてはそれなりの物をつかっているな。とヒューゴーは半ば関心しながら窓の外に視線を向ける。が、特段なにを見ているという訳でもない。視界の端に石畳を直す者の姿が数名映ってはいるが、注意して見ている訳ではなかった。
その理由はヒューゴーの真正面にある。
対面するように座したクローク姿の男が、舐め回すような熱烈な視線を送ってきているからである。客人の出迎えとして寄越されている事から、アザリア中枢の人間であることは間違いない。
クローク姿の男は、外を見るヒューゴーに向けて言う。
「いやいやお恥ずかしい。どうやら、行商の荷台が倒れたとかで」
白髪交じりのひげをさすりながら、困ったような笑みを浮かべて。
そんな顔と言い訳を並べたからなんだというのだ。とヒューゴーは内心思ったが、口には出さない。
「それはお気の毒に。何もこんな日に倒れる事もなかったでしょう」
代わりといってはなんだが、皮肉めいた言葉を返しておく。