第一章 トラブルは横暴幼女と共に

 店主の叫び声をリッキーは両耳を塞いでやり過ごす。

 そのままぷい、と店主に背を向けるように大通りの方を振り返ると、石畳の修繕を終えた人々の姿がちらほら見受けられた。

 道具を片づけ、撤退の準備をしている人々を見て、リッキーはそういえば自分は買い出しをするために街に来ていたことを思い出す。

 ──さって……じゃあ俺もそろそろ買い物に戻るか。

 内心そう呟き、立ち上がろうとした時だった。

 ガラガラと音を立てながら石畳の道を走り抜ける箱馬車がリッキーと店主の目の前を横切る。

 馬二頭で引かれるそれは木製で、手綱をとる御者(ぎょしゃ)が黒服と帽子、つまるところ正装であるところを見るに、客人を運ぶ送迎馬車と判断するのは容易だった。

 通過の際、箱に搭乗した人間と目が合う。

「……顔色の悪ぃ奴」

 ぼそりと呟くリッキー。

「うん? どうかしたかい?」

「いや、なんでもねーよ」

 どんどん遠ざかっていくその馬車を見送りながら、リッキーは悠長にあくびをして店主との会話を完結させた。