第一章 トラブルは横暴幼女と共に

 街の行事の時は山で獲れる獣肉の類を提供するし、冬が近くなると大量の薪を安値で売りさばいている。アザリア近郊にある採掘場から出る排石に至っては、住宅や石畳に利用可能である観点からリッキーが運び屋として運搬する事も多々ある。

 つまり、イアンと一緒でなければリッキーはそれなりの好青年だという事だ。

「仕方ねえな。よっこら、せ」

 再び家屋を持ち上げるリッキー。

 掛け声にこそやる気はないものの、重量単位トン越えの家屋がそれこそ木箱でも扱うかのように軽々しく宙に浮く。

「右だよリッキーさん! 聞いてる? 私の話聞いてる?」

「わーってるよ。もっと右に傾けりゃいいんだろ。キツめの傾斜作りゃいいんだろ」

「どんな脳内変換したのそれええ! お願いだから真面目にやって!」

 頭を抱えて訴える店主。

 再度、超重量の家屋が設置される音が響き、砂埃が舞い上がった。

 地面に置かれたそれを見てみれば、今度はしっかりとくぼみに入り込んでいる。

「もうリッキーさんったら天邪鬼なんだから! 頭がイカれてるのかと思ったよ」

「あのね、人には言って良い事と悪い事があるんだよおっさん」

 しかし、ただ単純にくぼみにはめ込むだけではいけない。

 家屋とくぼみの間にできた隙間。

 これを上手く埋めなければ雨水等々が溜まり、材料に使っている石が傷みやすくなる。

 生憎、そのような技術をリッキーは持っていないのだが、ここに向かう際、女門番のアイリーンがその手の職人を手配していた。

 ──こんなもんで、俺の仕事は終わりか。

 ふう、とため息一つついてリッキーはその場に座り込む。