第一章 トラブルは横暴幼女と共に
5
ゴスン、と重量感のある音と共に砂埃が巻き上がった。
敷き詰められた石畳の空白部分に一階建て家屋が設置された音だ。普通ならば地面に土台を作り、その上に建材を重ねていくだが、今行われた作業はそれら全てを無視している。
出来上がりの家屋を設置するというのは不可能な話ではないが、そんな力技をやるにはそれなりの人手と道具が必要になる訳で。しかしそれら全てを一人でまかなうことが出来るリッキーには縁のない話だった。
「リッキーさん、もうちょい気持ち右だねこれ!」
うっすら立ち込める砂煙を手で払いながら、先の騒動で店舗を投げ飛ばされた店主が言う。
「いいよこんぐらい傾いてた方が。なんか味あるもん」
右に倣い、手をパタパタさせながらリッキー。
設置された家屋は地面のくぼみから若干外れ、斜めに傾いていた。
「欠陥住宅になっちゃうよ私の店!」
「大丈夫。老舗はね、みーんなガタがきてるもんなんだよ」
「いや間違いではないけれども!」
「ほら、なんかちょっと汚れて逆に箔付いたよおっさん」
「どの辺が!?」
先ほどとはうって変わって軽快な会話。
この店主、騒動の最中(さなか)にいた時は足を震わせ、耐え切れず地べたに座り込んでしまうほど恐怖していたのだが、今は状況が違う。
リッキーとイアンが揃っていない。
実際のところ、リッキーは普段は比較的温厚で友好的な人間だ。