第一章 トラブルは横暴幼女と共に
「あそこは最近、幼い子供の失踪が増えているな。大変な事だ」
「…………それと今回の視察、何か関係が?」
「ふむ、じゃあこれは知っているか?」
トン、と男の指が窓の桟を弾く。
同時、それまで不機嫌そうに歪曲していた口が、口端が、不気味に吊り上がり、
「アザリアの担当は死んだんだよ」
にんまりと、寒気のする笑みを浮かべた。
バロックの心臓が跳ねる。
なぜ、目の前にいる男は笑っている?
人が死んだという事実を口にしながら口角を吊り上げることができる?
もしも、例えば、仮定の話。
何かを成し遂げなければならない理由があるとして、そのチャンスを掴むためには何をしなければならないのだろうか。
だから、結局、予測の域。
絶対に成し遂げなければならない野心めいた感情があるとして、行く道を妨げる物、あるいは者があった場合、人間は何を企てるのだろうか。
──この男……
バロックは、ほとんど直感的に叩き出した答えを胸中で叫んで慄く。
──アザリアの担当を殺したのか……!
確証はあるのかと問われれば首を縦に振ることはできない。口から出たでまかせという可能性もある。しかし、男の顔に張り付いた笑みは常人のそれとは明らかに違っている。
開いた瞳孔。血走る眼球。口元から覗く隙間だらけの歯。滲み出る狂気が空気を尖らせ、バロックの皮膚の触覚を突く。
「そしてバロック。君は、王都上層部の根回しか」
ドクン、と。
一際大きくバロックの心臓が跳ねた。
バロックは隠していた。自分が、身分を偽ってこの場に居たという事を。